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Hashimoto Tsutomu

『経済倫理=あなたは、なに主義?』

アンケート結果2010-3

 


 

■ 北海道大学経済学部橋本ゼミにおける「公開ゼミ」でのアンケート結果です。(2010年12月3日)

 

対象は、高校生(西校)5名、高校教員1名、およびゼミ生(大学3-4年生)です。

 

近代卓越主義 5人

リベラリズム(福祉国家型) 2人

共和主義 1人

新自由主義(ネオリベ) 4人

耽美的破壊主義/支配者嫌悪主義 1人

平等主義/啓蒙主義(2) 4人

新保守主義(ネオコン) 1人

地域コミュニタリアニズム・アナキズム 4人

市民的コミュニタリアニズム 1人

 

以上、計23名

 

 去る12月3日に、北海道大学経済学部では、高校生のための公開ゼミを行いました。今年は橋本ゼミの公開ということで、この場を借りて「あなたはなに主義?」の講義と討議、そしてアンケートを行ないました。公開ゼミに参加された皆様に、感謝申し上げます。またアンケートにご協力いただきまして、ありがとうございました。

今回のアンケートでは、「近代卓越主義」が多数派になりました。前回の旭川高校における結果と同様です。近代卓越主義は、にわかに大きな支持を集めてきたようです。また今回は、この立場と互角の立場が三つありました。「地域コミュニタリアン・アナキズム」、「平等主義・啓蒙主義(2)」、そして「新自由主義(ネオリベラリズム)」です。

これに対して「リベラリズム(福祉国家型)」は、意外と少なかったように思います。これは最初の問いで、経済の倫理的埋め込み化を重んじる人々が多くなった結果と言えるでしょう。背景として、就職に対する意識が高まり、倫理的に振舞うことができないと就職に不利、という不安が広まっているのではないか。そのような仮説を立てることができます。大学生にとって、大企業へ就職できる確率は約0.5(つまり一人当たり約0.5社の供給がある)、これに対して中小企業への就職確率は約2(つまり一人当たり約2社の供給がある)です。大企業への就職が難しくなっているという現実が、就職希望者の倫理的資質を高め、経済倫理を重んじる傾向を生み出しているのではないか、と考えられます。

いずれにせよ、今回は、四つの立場がほぼ互角に競い合うという、イデオロギーの闘争関係が生まれました。

これまでの日本社会では、一つの支配的なイデオロギーの下に、みんなが考え方を共有して、信頼関係を築いてきたように思います。そしてその信頼関係が、経済社会のコミュニケーションを円滑にし、経済成長を可能にしてきました。ところが現在、これだけ複雑化し多元化した社会になると、もはや一つの支配的なイデオロギーでもって社会を運営することが、困難になります。

 さまざまな人が、さまざまな考え方をする。そうした社会において、私たちはお互いに、どんな信頼関係を築くことができるのでしょうか。それは、同じ考え方をもっている人たちが仲良くすることによってではなく、私たちが自分と違う考え方をもった人たちと、うまくやっていく方法を身につける場合ではないでしょうか。では、自分と違う考え方をもった人を、どうやって信頼することができるのでしょう。それはおそらく、人が自分の考え方を一貫させている場合でしょう。「あの人は、自分と考え方は違うけれど、しっかり自分のポリシーを持って行動している。だから信頼できる。」そのように考えることができます。自分が他人に信頼されるためにも、しっかりした考え方をもつ必要があります。相手に合わせて態度を変更するのではなく、一貫した態度を示したほうが、結果として信頼関係を育むことになる。そういう社会が次第に生まれているのではないかと思います。

 

 

 アンケート用紙に、参加者の皆様から、いくつかの感想をいただきました。いくつかご紹介します。

 

「今日はすごく貴重な体験をすることができました。大学生のみなさんとお話できたことも楽しかったです。考え方、主義もこまかくこんなにたくさん分かれていることにびっくりした。そしてこんなにたくさんの考え方で世界が動いているのだなぁ、、と感じました。1つのことでも、いろんな角度からみると考え方があるなと思った。自分の考え方をしっかりもちたいなと思いました。」

 

「近代卓越主義になりました。プライドを大切にする、プライドのある生き方をすべき、というところで当たっていると思いました。

 ここでリベラリズムとの違いは、AでYを選んでいるという点ですが、私は割と安定志向なので、破壊や進化といったXは選びませんでした。経済・社会は、ある程度慣習通りに運営されるのがよいと考えています。リスクを負って変なことにチャレンジして進化を目指すより、欲は出さずに現状維持、というタイプです。それは、起きた事をありのままに受けとめる性格だからかなと予想しました。受け入れて、今そこにあるもので幸せを感じられるから、その幸せを危険にさらしてまで新しいことをしたくはない。ある意味でヘタレというかビビリというか、、、。

 でも全Yという近代卓越主義が最近多いのは、そういった考え方の若者が増えているからなのではないかと思います。

 背景として、ある程度不自由のない家庭で育ち、挫折経験がない、もしくは少ない若者に多いのかな、というのが私の考えです。

 『何かをあきらめてはいるけど、誇りを持って生きている』というのがキーワードだと思いました。」

 

「個人研究でもフィンランドの社会保障をやっているように、北欧の経済や政治にすごくあこがれを持っているので、まさにこの通りです。自律して自由に生活したいけれど、そのために保障は欠かせないと考えています。

 当たってびっくりしました。面白かったです。」

 

[近代卓越主義を選んだ理由] 各人が極力、倫理を重んじ、他人に感謝しあう関係を理想と考えたため。また理想と現実がズレるのはある意味では仕方ないことであろうが、近視眼的に現実に流される生き方では存在の意味を見失ってしまう可能性が高いと思う。それ故、最も間近の現実(自分の力ではどうしても理想に近づけることはできない)に関してはあきらめながらも、長期的には理想に1ミリでも近づけるような生き方が理想的だと考えた。」

 

 この他、高校でオーケストラ部に所属している方が、破壊的耽美主義に分類されて、美的志向とこのイデオロギーとの相関関係が認められました。「……この主義の説明にある、『政治も経済もいずれも汚れている』というのは、私自身とても思うところです。総理大臣もコロコロ変わって無責任な人が多いと思います。最初は少し違和感を感じていましたが、この主義は私にピッタリだと思いました。とても深い話でしたが、とても分かりやすく楽しかったです。」

 

 皆様、ありがとうございました!!

 

2010年12月12日

橋本努